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冷たい幼馴染みとその弟/chitoku

その年、彼らの住む町で、殿様蛙が大量発生した。その地域一帯の車道には、タイヤに轢かれた殿様蛙の残滓が点々と連なっていた。
六年生の×造は、一つ下の幼馴染みとその弟と、三人で下校中であった。夏休みが近い暑い午後、わざわざ畦道を経由して、殿様蛙を物色しながら歩いた。
団地まで帰宅する道程で、水田が終わるところに、コンクリートで囲まれた小さな空き地があった。畦道から空き地に上がる直前、×造の幼馴染みは「これでいいら」と、適当な殿様蛙を鷲掴みにした。×造は「いいら」と答えて、先に空き地に上がり、尖っているものを地面に探した。
×造の幼馴染みの弟が、缶ジュースのプルタブを見つけた。×造はそれを受け取ると、リング部分をもぎ取って、薄い蓋の方の切り口を指でなぞった。ヨシ!
彼らは、手術台に見立てたコンクリートの台の砂を払って、生け捕った蛙の手足をつまんで、×造の幼馴染みとその弟が仰向けに押さえつけた。
×造は、プルタブを蛙のアゴ辺りに突き立て、下腹部まで蛙の体をなぞったが、プルタブは柔らかい蛙にめり込んで、切れも刺さりもしなかった。×造は「行くぞ」と言ってから、再びプルタブを突き立てた。やっぱり同じようにめり込むので、×造は幾分回転させて、ついに蛙の腹に穴を開けた。×造は左手で蛙の腹をつまんで、開いた穴にプルタブを引っ掛けて、ゴシゴシ皮を切り始めた。やがて蛙の腹は真ん中で切り裂かれ、内臓が少し見えた。×造は、切った腹の皮を左右に拡げて見せた。ホレ!
そのとき蛙が急に暴れた。思わず三人とも手を離した瞬間、反動で蛙はくるりとうつ伏せに×造の手に乗った。「うがっ!」
腹を裂かれた蛙は、×造の手に払われ、水田まで飛ばされた。×造の幼馴染みとその弟は、腹を抱えて大笑いした。
×造も苦笑しつつ、飛んでいった蛙を水田に探した。「おい、見てみ!」×造が叫んだ。空き地から見た水田の、腹を裂いた蛙が落ちた辺りには、大きめの殿様蛙がうようよ見えた。「すげえ」
×造は、空き地に落ちていたスーパーのビニール袋を拾ってきて、靴と靴下を脱いだ。幼馴染みとその弟も脱いで、水遊びを兼ねた蛙の捕獲に、三人とも夢中になった。
大きめの殿様蛙は次々と袋に放り込まれたが、例の腹を裂いた蛙は何故か見つからなかった。一休みしながら、×造と幼馴染みは、満杯になった袋を覗いていた。すると、幼馴染みの弟が急に「もう帰る」と言って空き地に戻った。×造と幼馴染みは声を掛けたが、幼馴染みの弟は、水田を振り返ることなく足早に行ってしまった。
残った二人は少し白けたが、×造は腹を裂いた蛙を探そうと幼馴染みに提案した。幼馴染みは、躊躇しながらも頷いたが、少し経つとやっぱり「もう帰る」と言って足早に帰ってしまった。腑に落ちなかったけれども、×造は、すっかり興味が失せて、袋の蛙もそのままにして帰宅した。
「どうしたの、その顔!」×造は、全く気付いていなかったが、腕や足、腹までも、セルライトのような不気味な蕁麻疹に覆われていたのである。洗面所の鏡を見て、×造は「崇り」だと想像したけれども、それは恐怖ではなく興味であった。これからどうなるんだろう、という期待…
×造の母親は、慌てて×造を皮膚科に連れて行った。
皮膚科の診断結果は「あせも」であった。急激な発汗による激しいあせも。×造は、幼馴染みとその弟が、これを見て何を思ったのか、想像すると結構楽しいのであった。

『文章王の掌編小説ゼミ』
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テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

東京/かもねむ

新緑で街中が華やぐこの時期、アスファルト上には遥か遠くの山々から風に乗って飛ばされてきたたくさんの花粉達が、窮屈そうにふり積もっている。路面で一瞬の休息をしていた花粉達は、風が吹く度、僕が地面を踏みつける度そして車が交差点を走り抜ける度、自分の意思とは関係なく、翻弄されるように再び空中にまた舞い戻るのだ。
スクランブル交差点で信号待ちをしていると、交差点の向こう側に隆文がいた。僕は隆文に手を振ったが、隆文はそれが僕だと気がつかない。お互いにもう何年も会ってないし、おまけに今僕は花粉症対策のためにひどく大きなマスクをしているわけだから無理もない。信号が青になり、まだ僕だと気づかない隆文とすれ違う直前、僕はマスクを外して顔を見せた。隆文は一瞬驚いて顔を引きつらせたがすぐに昔のままの笑顔で笑った。
「ひょっとするともう8年ぶり位になるのかな」近くにあったコーヒーショップで、指を折り曲げて数えながら隆文が言う。
僕らが学生の頃は都内でもまだ数少なかったこのコーヒーショップだが、今はどんな街にも必ず一軒ずつある。一緒に田舎を出てきた隆文は大学一年の時の同居人で、別々に住むようになってからもよく行き来していたのだが、就職してからは特に理由もなくお互い疎遠になっていた。それにしても8年という歳月があまりに早く過ぎ去った事に改めて驚く。その8年の間に隆文は一児の父親となり、僕は、重い花粉症に悩まされるようになった。
僕も隆文もどういうわけか山間にある僕ら二人の故郷にはほとんど帰らなかったのだが、先月隆文は久しぶりに親戚の告別式に出席するため帰郷したのだという。
「あのな。夕子ちゃんと偶然会ってな」夕子というのは、高校時代にただ一人、僕の恋人だった女の子だ。
「最初、あ、夕子ちゃん少し太ったかなって思ったんだけど、あれはお腹に赤ちゃんいたからなんだよ。あの娘、俺に何も言わなかったけど、間違いない。まぁでも幸せそうだったな」
大学一年の夏のある日、当時僕が隆文と同居していたアパートにアルバイトから戻ると、ドアの前になんの連絡も前触れもなく故郷にいるはずの夕子がいきなり立っていた。結局2日後、僕は夕子を田舎で待っている夕子の両親の元に送り届ける事になったのだが、二人ともお金の持ち合わせが少なく新幹線のチケットが買えずに、普通列車やローカル線を乗継ぎして故郷まで向かわざるを得なかった。列車の中で僕はあまり話をしなかったのだけれど、なぜか夕子はいつもよりずっと口数が多かった。新幹線ではないから当然、僕らの田舎までたどり着けないまま日が暮れてしまい、どちらから言うともなく途中下車した駅の近くの安宿で、僕と夕子は初めてセックスをした。
結局それ以来、夕子と会っていない。あの夜の夕子の白くて薄いお腹の皮膚の下には、今赤ん坊がいるのだ。
再開の約束をし、隆文とコーヒーショップを出る。再びスクランブル交差点で信号待ちをしている僕の前を、自動車が音を立て次々に走り抜けていく。その度アスファルトの上で、土にも帰れず、受粉もされない花粉達は空中に再び舞い上がる。そしてさらには風が遠くの山々から新たに運んでくる花粉達と合流し、落ち着く場所を求め彷徨うことになるのだ。後ろを振り返り、隆文の後姿を見届けようと探したのだが、隆文はもう人ごみにまみれ遠くに見えなくなっていた。人ごみには、花粉のせいだろうか、薄黄色に靄が掛かっているように見える。なんだか涙目になってきた気がして、ポケットにしまっていたマスクをまた取り出した。

『文章王の掌編小説ゼミ』

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夕暮れのささやき/エフ

 その家は、わたしが小学校に上がった頃にはもう空き家だったので、少なくとももう五年は誰も住まないまま、そこにあるのだった。
 二階建ての古びたその家をぐるりと囲むコンクリート塀は、家のために誂えた棺のように見えた。家の中は暗く、カビと、植物の腐ったような匂いがする。玄関から入る僅かな光が、わたしが歩くたびにまき上がるホコリをちらちらと照らし出す。
「中、どうなってるぅ」
 家の外から同じクラスの女子の声がする。げらげらと笑う声と共に、ちゃんと家中全部見てこなきゃランドセル返してやんねーからなとか、さっさと答えろよグズとかいう声が、ガラスを隔てたようにぼんやりと聞こえてくる。
「あんた、そこに住めばいいじゃん」
 誰かが言って、他の女子がげらげら笑う。あいつが住んでるアパート、マジ、超ぼろいんだって。したら、貧乏アパート脱出じゃん。良かったじゃんよ。
どれも違う声の筈なのに全く区別がつかない。表でわんわんと鳴く蝉の声と混ざって、ノイズのように聞こえる。
「ちゃんと二階も見てこいよぉ」
 だれか、あいつのびびってる顔撮ってこいよ。えー、写るかなぁ。
 喉の内側が乾いて痒い。二三度咳き込むと、床がキシミシと音を立てた。壁に手をつくと、ぬるりと湿った感触がある。多分、苔が生えているのだ。
 ぼんやりとした闇の奧に階段が見えていた。ゆっくりと忍び足で近づく。どんなに慎重に歩いても、床がきしむ音を立てるのがとても怖かった。
 階段に足をかけると、表面の板が腐ってふかふかとしている。体重をかけるたび、階段はぎっぎっと歯ぎしりに似た音を立てる。小さな踊り場まで上るとつい、大きく息を吸い込んでしまい、ひどくむせた。
「本当は嫌なの、こういうの」
 不意に背後から声をかけられて、一瞬、驚いて息が出来なかった。振り向くと女子が一人、わたしの後からぎっぎっと音を立てて階段を上ってきている。
「でもやらないと今度はこっちがいじめられるし」
 携帯電話のカメラを向けられる。携帯電話のライトのせいなのか、こちらを見上げるその子の顔が暗く、真っ黒のお面を被ったようになっている。バシャ、と大げさなシャッター音が鳴った。
「ごめんね」
 真っ黒のお面の中でその子の小さな歯が、ちらちらと白く光った。
 両手で思い切り、その子の胸を突いた。その子は頭から階段を転げ落ちる。激しい大きな音が立って、少し腹立たしいような気持ちになった。
 真っ黒のお面はその子から外れることなく一緒に階段を落ちていく。白い歯は見えない。ただ真っ黒だ。
 その子が階段の下に落ちきる。携帯電話のライトが、苔むした床と漂うホコリを照らしている。家の外も中もしんとしている。蝉の声も聞こえない。
 よかった。とても安心した気持ちで、静かになったその子を見下ろした。

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