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「文章王の掌編小説ゼミ」10月度 募集中!

「文章王の掌編小説ゼミ」10月募集です。
<2,800字コースが新設されました>
完結した1400字、または2800字以内の作品を投稿してください。
※「課題」はありません。本当(実際の体験や伝聞)のことに嘘(想像したこと考えたことなど)をまじえて書いてください。それが上達効果を生みます。

【目白ゼミ開催日時】2008年10月31日(金) 19時より 2時間程度

◆申込締め切り 10月24日
 
◆投稿締め切り 10月28日


詳細は文章学校サイトにてご確認下さい。
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幸福のしみ/エフ

 さあ、先生。犬になってください。
 椅子に足を組んで座った彼が、学生服の詰襟を片手でくつろげながら命令する。口元だけで僅かに微笑む彼の足元に近寄り、両手と両膝をついて四つん這いになる。途端、左頬に彼の手のひらが振り下ろされる。彼の冷たい指が頬骨に当たって、ぎし、とわたしの歯が擦れあう音が頭の中に響いた。
「どうしたんですか、返事は」
 彼の声は冷たい。わたしを見下ろす眼鏡越しの冷ややかな目は、自分の家庭教師を見る目ではない。まるで、死にかけた蝉を見るような目をしている。
「申し訳ありません」
 打たれた頬がひりひりと熱い。赤くなってしまっただろうか。今日はまだ他に、家庭教師に行く予定がある。
 どん、と鈍い音がわたしの腹の奥で響いて、腹ばいに床に潰された。ぐぅ、と蛙の潰れたような声が出て、ようやく彼に背中を踏まれたのだとわかった。
「何を考えているんですか」
 彼がわたしの背中を踏んだまま尋ねる。呼吸さえうまく出来ないまま切れ切れに、いえ何も、と答える。彼はわたしの潰れた声を聞いて、くくく、と笑い声を立てる。彼の起こす振動が、わたしの背中を細かく揺らした。見上げると、窓からさす西日に照らされた彼の瞳が、暗く深い底なしの沼に変わっている。
「他の生徒のことを考えていました」
 正直に答えると、彼は一瞬瞠目し、それからわたしの髪を鷲づかんだ。そのまま無理やりに彼の目の高さまで引っ張りあげられて、頭皮がちりちりと痛む。
 頬をひどく打たれるか、そうでなければ腹を殴られるかもしれない。そう考えると、太ももの裏側から暗く甘い快感がぞわぞわと這いのぼる。
「どうして、先生」
 予想に反して、彼はわたしの肩口に額を寄せて呟いただけだった。彼の丸い後頭部を見ながら、鳩尾の辺りがぐっと冷えたような気がした。
「わたしの生徒は他にも、いるんですよ」
 彼の耳元で囁いてやる。彼の無防備なうなじが、びくりと震えた。
「他のやつのことなんか考えないで」
 髪を引っ張られて床に引き倒された。後頭部を床に打って、目の前が一瞬白く見えた。彼がわたしの頭をつかんで、二三度床に叩きつける。後頭部を打ったのに、ぷゎっと鼻血が吹き出た。生理的な涙が溢れて、目の前が滲む。
「お願いだから、僕だけにしてよ、先生」
 彼がわたしの首をぐっとつかんで絞めた。顔がぶわぶわとむくんで痺れる。
「先生。好きだよ、先生」
 彼の懇願するような声が、水中を漂うようにぼやけて聞こえる。首の後ろが、あごの下が、目元が、ぞくぞくと焼けるように熱く甘く痺れる。窓の外から調子外れなピアニカの音が聞こえた。
 白く滲んだ視界に、こちらを見下ろしてひっそりと笑う彼が、じわじわとしみのように広がっていく。

『文章王の掌編小説ゼミ』

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

虹を見てくれ!/chitoku

小3の夏休み、×造一家に異変が起こった。
僕と×造を含む仲間数人は、毎朝顔をあわせていたけれど、8月初旬頃になると×造だけ、ラジオ体操にもプールにも来なくなった。気にした仲間の何人かが×造の団地を尋ねたけれど、何度か留守だった後、チェーンロックしたままの扉が激しく開いて、男顔の母親に凄い剣幕で怒鳴り散らされた。母子家庭のことも、気難しい母親なのも、皆知っていたけれど、その後たまたま僕達が×造の住む48号棟の下を通った時、ベランダで立ち竦む×造を発見、遊ぼうと声を掛けても黙って首を振る×造に、僕達が勝手に「異変」を感じたのだった。
その後お盆まで、僕達は退屈になる度に、48号棟の4階のベランダにいる×造を"見舞った"。×造はといえば、僕達が声を掛けるたびに、チョコやアメを落としてくれたり、自作の紙飛行機を飛ばしたり、お尻を出してテレビの物まねをしたりして、僕達を楽しませるのだった。
お盆の最中には、ラジオ体操も小学校のプールも休みになり、その間×造のことを忘れてしまっていた。
ある真夏日のプールの帰り道、誰かが思い出して皆で48号棟に寄り道した。僕達は×造を見舞っていた芝生スペースに、アメやメンコやミニカーやらが散乱しているのに気がついた。4階を見上げると、いつもの煮しめたようなランニング姿の×造が、ベランダから僕達を見下ろしていた。申し訳ない気がして、思わず僕は「わりい!」と叫んだ。仲間たちも口々に声を掛けた。「チョメゾー!」「遊ぼう!」
ところが×造は、前と同じように黙って首を振った。僕達は誰とも無く、そこら辺の落下物と思われるものを拾っては、4階のベランダ目がけて投げ始めた。×造は手摺りから腕を伸ばして掴もうとするけれど、たいてい3階までしか届かなかった。僕達が汗だくになって、真夏の陽射しに疲れてきた頃、×造の背後のベランダの扉が、音を立てて閉められた。×造は慌てて開けようとしたけれど、中から鍵を閉められたようだった。
「酷くねえ、それ」すっかり血の気が引いた僕達だったけれども、「おがあざーん」と泣き崩れる×造を放っておくことはできず、僕達は近くの駄菓子屋に走って、アイスのホームランバーを買って戻り、4階に向かって投げてみた。さすがに4階は遠く、皆で交代しながら投げ続けたが、ホームランバーは早々と溶けてしまった。もう一度、今度はタマゴアイスを買ってきて、僕はそれを、渾身の力を込めて投げた。球体のそれは思いがけず高々と上がったが、ちょうど4階辺りで失速、ダメかと思った瞬間×造の腕がベランダの柵から伸びて<ガシ!>×造が、見事タマゴアイスをキャッチした。ウオー!僕達は蝉の声もかき消すほど大騒ぎした。
次いで×造は、ベランダの端から水道のホースを引いてきて、4階から僕達に放水したのだった。全身潮を吹いて日射病寸前だった僕達は、×造の機転を心から喜んだ。「ヤッホー!」「脱げー!」
はしゃぎ始めた途端、ベランダの出入り口が開き、男顔の母親が憎々しげに登場した。×造はベランダの端へ追い詰められたが、階下への放水は続いていた。僕達は恐くて身動きできなかった。怒鳴り声と泣き叫ぶ声が交錯した。その時「虹!」僕は叫んだ。
握り締められたホースから噴出した×造の放水は、団地を包む見事な虹を作っていたのだ。虹に勇気を得た僕達は、4階のベランダに大声で叫び続けた。「おーい!虹!虹!」「虹!」

『文章王の掌編小説ゼミ』

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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