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朧月夜/輔

 月がまん丸うてきれいやなぁ。見てみぃ。春やからか、霞がかかってるちゅうんかな、ほわ~っと白おて、おまえの顔みたいや。
 今夜はぬくいなぁ。ぬくいちゅうか、ぬるい、な。お前の顔もすべっとぬぅるい。
なんや今井のうどん、思い出すわ。デートんとき食べたなぁ。奮発して初めてお煮しめ頼んだとき、嬉しかったわ。うまかったなぁ。こんな小さい鉢で千円て驚いたけど、おまえもおいしぃ、おいしなぁ、言うてうまそうに食うてたもんなぁ。おまえの顔と今井のうどん、どっちが白いやろか。なぁ。
 いつやったか道頓堀ではぐれてもうて、余所見してるからやて、えらい怒られたことあったな。大きな目ぇをひんむいて怒るから、目ん玉落ちるんちゃうか思うたわ。言わんかったけど、おまえかて余所見してたん違うか。
 なんや、すこぉし寒なってきたな。な。おまえも寒いんちゃうか。手ぇが冷たいで。春ちゅうても、夜はまだ冷えるな。なぁ。寒ないか。お月さんも寒そうや。なんやしゃっきり見えてきたわ。
 この部屋、無駄に窓でかいから冬は寒うて夏は暑い。引っ越そな言うてたのに、そのままや。甲斐性の無い男で堪忍な。
 ケンカもしたけど、悪いのはいっつもオレや。分かっとっても、謝れん性分や。難儀なやっちゃ。あんたに嘘ついたこと無いやろて、おまえいっつも言うとった。あれ、ほんまやと思う。疑り深い男なんて最低や。でもなんであんなに疑うんやろ。疑りだすとぐるぐるぐるぐる、悪い方にしか考えられへん。そうなるともうあかん。
 一人前の甲斐性も無いくせに、焼きもちだけは10人並やて言われたこともあったな。ほんま、そやな。おっしゃるとおりや。なんでかな。オレには過ぎた女房やからやろか。な。おまえべっぴんやし、性格もええし、働きもんやしな。申し分無いな。言うたらオレは果報もんや。ほんま、過ぎた女房や。でもな、過ぎたるは及ばざるが如し、言うてな。オレには過ぎた女房や。
 あぁ、そや。ほんま嘘つかれたこと、無い。無いなぁ。
 あの人はただの知り合い言うてたもんな。あれもほんまやったんやろな。
でもオレは疑うてもうた。あの男、いやらしい目ぇでおまえのこと見とった思うて。疑って疑って抜け出せんようになってもうた。
 …なんや、急に暗くなった思うたら月に雲がかかったんか。
おまえの白い顔がぼわーと暗がりに浮かんで見えるわ。黒い目ぇが光ってみえる。こんな大きい目ぇやと、ゴミもようけ入るやろな。糸目のオレには無い苦労や。
 なんやオレばっかり喋っとるな。アホみたいやんか。なぁ。オレはアホちゃうで。…アホな。アホかもな。うん。アホや。
 …雲、どいたわ。また明るうなってきた。月明かりもええもんやな。今夜はちぃと冷えるけど、造幣局の桜もそろそろやろな。今年も行こう言うてたな。初めておまえとキスしたんも、桜見た帰りやった。空色のセーター着とったな。子供んときにサイダー初めて飲んだん思い出してん。甘ぉて、シュワっとして、ほんで、せつないねん。
 なんや今夜はおまえ、妙に白いなぁ。月明かりのせいかいな。首んとこだけ赤いで。どないしたん。
なぁ。なぁ、て。なんか言えや。
 …なんも、なんも言われへんよなぁ。おまえの首、オレが絞めたんやから。
 こんな亭主で堪忍な。ほんま、堪忍してや。
 ああ、またお月さん隠れてもうた。堪忍してくれへんやろか、お月さん。お月さん、やて。どの面下げて言うてんのやろ。アホやなぁ。ほんまアホや。堪忍な。
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テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

カインの炎/永都由崇

――しかしカインとその供え物は顧みられなかったので、カインは大いに憤って顔を伏せた――   創世記 第四章より

 なぜだ! なぜだ! なぜなんだ! この肉体に鞭打ち、照りつける陽に焼かれながら、俺が血と汗を注ぎ込んで育てた大地の作物よりも、あの弟が、一日のんきに笛を吹いているだけの羊飼いが捧げた子羊の供え物のほうが、愛が勝っている筈など無いではないか!
  なぜ神は、いつもあいつばかり愛するのだ! なぜ俺の真心をわかってくれないのだ!
 あぁ! 俺はあいつが妬ましい! あいつのことを考えるだけで、この胸は気も狂わんばかりに燃えあがって俺を苛む! あいつさえいなければ神の愛も少しは俺に向けられるかもしれない。そうだ、あいつさえ、あの弟さえいなければ……!


 なぜこいつは俺の後を素直についてくるのだ? いかに実の兄とはいえ、こんな焼けつく荒れ野に呼び出されることをいぶかしむ心は無いのか? 俺の、自分でも恐ろしいほど真っ赤に膨れ上がった心臓では、憎悪が黒い業火となって燃え滾っているのに、ははっ、こいつは俺を気遣い、やれ、石混じりの荒れた土で足は大丈夫かと言ってみたり、先日、自分の羊に何匹子供が生まれただのと話をして和ませようとしている。この愚劣とも思える無垢さ、まるでこいつが飼っている羊そのものではないか。この純真な魂こそ神が愛する所以なのか?

 それにひきかえ、俺はいったい何をしようとしているのだ? こいつを、同じ母の腹から生まれた血を分けた弟を、この隠し持った棍棒で殴り殺そうと企んで連れ出しているのだぞ……! こいつとはまだ幼き日々、父と母に見守られながら大地を駆け回り、笑いあったこともあるというのに……

 あぁ、ついてくるのを止めて、こいつが引き返してくれたなら……それが叶わないのなら、このままどこまでも歩いて行ってしまおうか? だが皮肉にも足を進めるたびに俺は、暗黒の淵に向かって引き返すことのできない歩みを刻んでいるような気がする……                  
 くそっ、このぎらぎら燃える太陽が俺を蝕む。灼熱の空気が肺を焦がし、胸が苦しく、目が霞んで、気を抜けばたちまち倒れてしまいそうだ。いったい……いつまでこんな思いをしなければならないのだ……誰か、誰か俺を助けてくれる者はいないのか……
 
 ……やはり……この地獄から逃れるためにはこいつを殺すしかないのか……この弟を…………………うぅ……頭の奥底で何かが囁く声がする。早くやってしまえ、すぐに楽になれるぞ……この棍棒でこいつの脳天を叩き割るだけだ、と……これで……これ……で………………


 …………俺は……俺は殺してしまった……あいつを、実の弟を殺してしまった……この掌には今でもあいつの血のぬめりと臭いが残り、いくら擦り洗っても決して落ちることがない。

 それもこれも全て神のせいだ。神はあいつの姿が見えなったときも、愛する者の不在を嘆いて俺を厳しく問い質した。そして、俺の懺悔も、悶える想いの吐露も冷たくあしらったものだ。

 そんなにあいつが大事か。この俺よりもそんなにあいつが……!

 ほんのわずかでも俺に、あいつに対する十分の一でも百分の一でもいい、優しい言葉の一つもかけてくれればこんなことにはならなかったのに……!

 それなのに神は、罰として俺を追放するため、俺の土地に作物が実らないようにと呪いをかけ、他人に弟殺しの罪過がわかるよう肉体に印をつけ、俺を殺した者には七倍の復讐があるなどという仕掛けまで施した。弟の命を無残に奪った罪に魂を押し潰され、苦悶する日々を送らせるだけでは足らず、寄る辺のない地上をさすらい、白日の下にさらされた罪によって、人から唾棄され、侮蔑の石つぶてを投げつけられる宿命を俺に与えたのだ……

 ……だが、それが俺に与えられた罰ならば、いいだろう、受けてやろう。俺がこの地上を生き続ける限り、嫌でも神は俺を目にしないわけにはいかないのだ。土の下で朽ちて骨となり忘却されることはないのだ。

 生きてやる。生きて生きて、生き抜いて、神がもっとも嫌悪する、この俺の呪われた分身、薄汚い血を受け継ぐ子らで地上を満たしてやろう。

 さあ、もう行かなければ。この地に留まることはできない。あいつの、俺が愛し憎んだ、血肉を分けた弟の声が土の下から聞こえてくるこの土地では、俺の猛る復讐の意志も萎えてしまうというものだ。

 さあ、祝福せよ、我が弟よ、炎に狂った兄の旅立ちを!!

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6月の花嫁/エフ

 窓を閉めないと、雨が入ってきちゃうよ。
 妹は言いながら、畳の床にうつ伏せに寝転んだ。灰色の鈍い光が、降り込んだ雨に濡れた畳を照らす。窓ガラスに雨が当たって、ぱらぱらと音がした。
「この部屋ともお別れかぁ」
 妹のつぶやきは、部屋の中をぐるりと漂い、畳の目の間に吸い込まれていく。
「お姉ちゃん、さみしい?」
 妹が笑う。
「さみしいよ」
 両親と別れてから、ずっと二人でいたから。妹の荷物がなくなった薄暗い部屋を見回すと、ずいぶんがらんとして見える。
「風邪ひかないように気をつけなさいね」
 わかってる、と言いながら、妹がごろりと仰向けになる。シャツがめくれて、腹がちらちらと覗いた。
「ねえ、お姉ちゃん。麦茶飲みたい」
 妹がずいぶん甘ったれた声で言う。自分でやりなさいよ、と言いつつ、冷蔵庫から作り置きの麦茶を取り出してグラスに注いでやる。黒砂糖を一つ入れるのが、うちの麦茶だ。
「はい。こぼさないでね」
 手渡すと、妹はグラスの半分くらいまで、一気に麦茶を飲んだ。滑らかな喉が、微かに上下する。
「最後だね」
 妹は言いながら、グラスを畳の床に置いた。生暖かい風が吹いて、カーテンがちらちらと揺れる。しっとりと湿気た光が、妹の白い太ももを照らした。
「そうね。最後ね」
 仰向けに寝転ぶ妹の上に、ゆっくりと馬乗りになった。妹は驚いた様子もなく、ただわたしを見上げる。薄い腹の上に座ると、ぐぅ、と息を漏らした。細い首に手をかけると、猫の首をつかんでいるような、心もとない感触があった。温かな妹の首は湿っていて、親指にとくとくと脈を感じる。
「わたしは、妹も、恋人も、一緒くたになくすのよ」
 首に回した指に力をこめると、妹が眉間にしわを寄せて、けれども小さく笑んだように見えた。恋人を奪った妹が憎いのか、妹を奪う、わたしの恋人であった男が憎いのか、わたしにはわからなかった。
 ただ、雨音だけが、頭の中で反響する。
「お姉、ちゃん」
 ほとんど吐息だけの妹のささやきが、どうしたって愛おしかった。投げ出した妹の手が、置きっぱなしのグラスを倒し、麦茶がさらさらとこぼれていく。
 降り続く雨の気配が、部屋の中でぐるぐると渦巻く。黒砂糖の微かに甘い匂いが、じっとりとわたしの肺を満たして、ひどく息苦しかった。

 週末の、妹の結婚式には、きっと雨も止むだろう。

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ポップコーンなんかいらない!/ちとく

梅雨明けの駅前公園で、鷲掴みにされたポップコーンが無造作にばら撒かれた。
公園風景の一部に過ぎなかった数羽の鳩が、一斉にポップコーンを見た。その瞬間、風景上に点在していた鳩とは思えない程の数十羽の鳩が、散らばったポップコーン目がけて沸き立つように集まった。
その中に一羽だけ、その凄まじい光景から浮いてしまっている雄鳩、すなわち俺がいた。

俺は、気がついたときには、求道的に生きていたのだ。俺が求めているのは、一見すると美や表現のようだが、突き詰めてみれば「何故俺が求道的に生きる鳩なのか」ということに違いない。
ばら撒かれたポップコーンは数分で食べ尽くされ、公園の鳩は風景の一部に戻っていった。ところが俺は、風景に戻ることなく、何も無い公園の真ん中に立ち止まり、他の鳩の原始的な、欲求そのままの行動を冷ややかに見ていた。俺の中にも幾分残っている本能的な部分、それは求道的な俺にとって厄介な足枷に過ぎず、俺の嫌悪の対象だ。特に最近では、身悶えするほど気障りな、原始的欲求に悩まされている。
見よ、俺の前を、一羽の雌鳩が通り過ぎ、ベンチの日影に入って休息している!
俺は求道的に生きてきたから、いまだに独り身だ。本能剥き出しの鳩一般と同じ行動はもはやできない。にもかかわらず、適齢期の雌鳩が視界に入ると、体中の原始的な欲求が活動を始めてしまう。
俺は、日影で休息する雌鳩に向き直った。傍目には落ち着いているように見えたかもしれないが、俺の体内は劇的に活動し始め、体中の血や体液が、まるでポップコーンに群がる鳩のように、一斉に下腹部に集中していた。
一般的な雄鳩であれば、早足で雌鳩に近づく場面であった。ところがその変った雄鳩つまり俺は、拡げた尾羽を地面に引きずって、きわめてゆっくり雌鳩に対する求愛を始めたのである。
見よ、俺は恥ずかしくて恥ずかしくて、今にも逃げ出してしまいたいのに、体毛が膨れ、下腹部が脈打っている滑稽!
俺の求愛行動を認めた雌鳩は、お約束通りにトコトコ逃げた。痛々しいほど興奮しているぎこちない俺は、雌鳩のトコトコに歩調を合わせて、お約束通り雌鳩を追いかけた。
追いかけている最中、俺の思考は乱れに乱れ、嘲笑すべき肉欲を無理やり求道的生き方に結びつける出鱈目な解釈を、次から次へと発明していたようだ。
俺がもたもたしていると、視界の雌鳩を遮るように、俺より若い別の雄鳩が尾を向けて割り込んできた。そいつはさっさと雌鳩に追いついて、嘴をつつき合ったり背中に乗ったり降りたりして、あっという間に一組のつがいとなった。
俺は、目の前の一連の出来事を一度に消化できなかったが、俺の体はすぐに反応を示した。一旦は下腹部に集中した体液が、今度は一気に頭部へ昇っていった。

梅雨明けの駅前公園で、鷲掴みにされたポップコーンが、再び無造作にばら撒かれた。
あれほど嫌悪した本能に身を任せ、目の前のつがいに攻撃しようとしていた俺は、思わずポップコーンを見た。その瞬間、おびただしい数の鳩が、散らばったポップコーン目がけて沸き立つように集まった。本能剥き出しの鳩一般と同じ行動ができない俺は、眼下の地面をひたすらつついた。何故俺は、求道的に生きる鳩なんだ?……嘴が削れて無くなっても、いつまでもいつまでも俺は地面をつついていたのだ。

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

新年度「文章王の掌編小説ゼミ」4月度募集中!

新年度最初の「文章王の掌編小説ゼミ」4月の募集です。

課題に沿って、完結した1400字、または2800字以内の作品を投稿してください。
※4月は課題ゼミです!
課題:嫉妬
本当(実際の体験や伝聞)のことに嘘(想像したこと考えたことなど)をまじえて書いてください。それが上達効果を生みます。

【目白ゼミ開催日時】2009年4月24日(金) 19時より 2時間程度

申込締め切り 4月17日
 
投稿締め切り 4月21日

詳細は文章学校サイトにてご確認下さい。

非力/QuariBravo

Web『○○新聞』ホーム > 県内ニュース > 事件・裁判

連続強盗未遂事件、被告に懲役1日 ○○地裁判決
 ~ 被告側は控訴の意向

 ○○市で昨年3月に起きた連続強盗未遂事件で、家宅侵入および強盗未遂の罪に問われた同市在住、無職 桑理部羅慕被告(44)の判決が24日、○○地裁であった。裁判長は検察の求刑通り懲役1日を言い渡した。

 判決によると、桑理被告は昨年3月1日、市内の路上を通行中の男性(102)に刃渡り25センチの包丁を突きつけて現金を要求したところ、男性から杖で頭や腰を強く殴られたため何も取らずに逃走した。また翌2日には、市内に住む会社経営者(35)宅に鉄パイプを持って侵入し、家で留守番をしていた長男(3)と長女(6)に金品を要求したところ、長男から真空飛びひざ蹴りを食らい長女に後ろ脳天逆落としを掛けられたため、一時意識を失った後、何も取らずに遁走した。さらに3日、市内のアパートに住む女性会社員(27)の部屋に金属バットを持って押し入り金銭を要求したところ、会社員と居合わせた友人ら女性4人に取り押さえられ局部を繰り返し手でマッサージをされたため精力を使い果たし、ふらふらの状態で逃走しようとしたところ、誤ってアパート階下の暴力団事務所に転落し、組員(86)ら十数人から集団で暴行を受けた末、全裸で路上に放置された。その後、通りがかりの保育園児(5)に路上で倒れているところを発見されたが、声を掛けられた桑理被告がいきなり保育園児から金を奪おうとしたため、保育園児から顔を数回殴打され気を失ったところを、近所の住人からの通報で駆けつけた○○署員に保護され逮捕された。

 裁判長は「高齢者や幼児、女性といった弱者ばかりを狙った卑劣な犯行で、地域社会に深刻な恐怖感を与えた」としながらも、「被告の極めて虚弱な筋力を考慮すると、たとえ再び犯行に及んだとしても他人に重大な危害をもたらすことはありえない」と断じ、そのうえで「無罪だと示しがつかないから、まあ一晩泊めてあげればいいんじゃないの」と述べた。

 一方、被告側は「このように虚弱な人間では、一般社会で生活することは無理。生活保護の観点から、国は被告を刑務所に収監して生涯の面倒を見るべき」として無期懲役を主張しており、控訴する方針。

 なお被告は、強盗未遂に際し被害者から受けた反撃が原因で多額の治療費が掛かったとして、被害者全員を相手取り、この治療費全額の支払いを請求する民事訴訟を同地裁に起こしている。こういうのを盗人猛々しいという。

▽ 担当検察官の話
 犯行の動機は「不況で勤め先が見つからず、金が欲しかった」という身勝手なものだが、犯行の結果、かえって高い治療費を負担するはめになった。なんだか哀れに思えて泣けてしまう。あんな筋力でよく強盗しようなどと思いついたものだ。きっと包丁で大根を切ることもできないに違いない。再犯の恐れはあるが、まあ、これからも頑張って生きてもらいたい。

▽ 被告代理人の弁護士の話
 控訴の手続きをしたいのだが、なんだか私まで脱力してしまって力が入らない。

▽ 被告代理人の弁護士の母の話
 つまんない事件ばかり当たっちゃうざますわ。わたくしの息子、東大卒なのに。あ、いま言ったこと聞こえましたこと? もう一回言うざます。わたくしの息子、東大を出て司法試験に一回で合格したざますの。すごいと思いません? なにしろ東大出身ざますからね。ところであなた、どこの大学出てるざますの? はあ、オックスフォードの大学院? TOEIC満点? ふ~ん…

▽ この日たまたま地裁を訪れた、担当記者と顔なじみの飲食店主(48)の話
 どうもごぶさた。え? 野球WBCの決勝、日本対韓国戦? さっき1-0で日本が勝ってたけど。

▽ 地裁前をワンセグ携帯片手に通りかかった工務店役員(52)の話
 野球WBCの決勝? いま9回裏、3-3で同点です。

▽ 市内にある家電量販店のテレビ売り場で、高校生(17)の話
 わ~、やった~っ、日本勝った! 超、嬉しい、もう最高っす!

▽ 同じく男性会社員(29)の話
 やってくれました、イチロー! ニッポン万歳!

▽ 社会部デスク(56)から担当記者への話
 お前、いま取材サボって家電量販店にテレビ見に行ってただろ。後で俺の所へ来い。

▽ やばいので判決の話に戻って、被害を受けた女性会社員の話
 男の人をおもちゃにしていじめるなんて、めったにない機会なので、部屋に押し入られたときは友達とみんなでめっちゃ盛り上がりました。とても楽しかったです。え、1日で出所できるんですか? わあ、それならぜひ、また私の部屋に侵入して襲ってきて欲しい。

(2009年3月24日 15:31配信)

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お見事!/ちとく

冬休み間近の放課後、少年は、校門に近いポプラの並ぶ辺りで、竹串より幾分太めの細かい枯れ枝を拾い集め、それを井桁に組んでいた。タテヨコ10cm程度の井桁の塔は、今、何よりも少年を夢中にしていた。
そこに、少年と同じクラスの優等生一味が通り掛った。
「お!キャンプファイヤーか?放火か?」
内気で、優等生に劣等感を持つ少年は、黙って井桁を組み続けた。一味のリーダー格が「手伝いまーす」とわざわざ敬語を使い、落ち葉を抱えて少年の井桁に放り投げた。
「よせ!」少年は、井桁を台無しにした落ち葉を、リーダー格らに向けて手荒く払った。
「チョメゾーのくせに!」リーダー格が少年の胸倉を掴むと、少年もリーダー格の上着に手をかけた。
その時、優等生一味の背後から、勇ましく甲高い声が響いた。「やめてよ!来年中学生なのに!」
声の主は、クラスで一番人気のマドンナで、優等生一味は誰もが狼狽した。彼らが気を取られている隙に、少年は胸倉の手を払いのけ、枯れ枝の回収に取り掛かった。
彼ら、特にリーダー格はマドンナに弱く、一方的に責められて校門から出て行った。それを見送ったマドンナは、相変わらず一心に枯れ枝を拾っている少年を扱いかね、なぜか手伝わなければならない気がした。
「こういうやつ拾えばいい?」「あ、うん、同じくらいの」
少年は、思わぬ共同作業に緊張はしたものの、暮れかかる寒空に気が急いた。
少年が井桁を組み始めると、マドンナも同じ井桁に枝を差したが、いちいち少年が置き直すので、隣に別の井桁を組んだ。少年とマドンナは、同じ枯れ枝の山から、二本ずつ抜いては井桁に積む作業を黙々と続けた。
少年の井桁が膝の高さを越えた頃、町のチャイムが夕方5時を告げ、マドンナは背伸びをして少年を見た。
「すごい、倍はあるね。悔しいけど、今日はここまで。明日の朝、早く来て続きしようかな。5時過ぎたよ、学校出ないと!」
少年は、マドンナが「さわるな!」の意味を込めて、地面に囲い線を引いたりするから、仕方なしに井桁から離れた。マドンナの、低くて歪な井桁に比べて、少年の井桁は真っ直ぐ上に伸びて、塔と呼ぶに相応しいものだった。
二人で校門を出てから、マドンナは内気な少年に気を使って、色々なお喋りをした。少年は、マドンナが頭が良くて美人だと以前から知ってはいたけれども、そのお喋りには殆ど興味が持てなかった。T字路に差し掛かり、「私こっち、明日の朝カメラ持ってくから!」とマドンナは少年に手を振り、快活なウインクを飛ばした。少年は、ぎこちない会釈を返した。
一人になった少年は、遅めに歩いては振り返り、マドンナの行方を眼で追った。何度か繰り返した後、彼女が角を曲がって見えなくなった。少年は足を止め、ジャンバーのポケットから手を出して、ランドセルの肩紐を握った。そのまま数秒間、マドンナがもう来ないことを確認した。「よし!」
少年は一目散に駆け出して、マドンナと歩いた道を小学校まで戻り、半開きの校門もノンストップで、井桁の塔の前に躍り出た。
最初に、低くて歪な井桁。右足を井桁の真上に上げて一旦静止、そしてクシャ!
次いで井桁の塔。念の為ランドセルを下ろし、井桁の上に高々とジャンプ!両ひざを抱えるように、塔の真上から垂直に、出来るだけ膝を伸ばさず、一気に下まで、グッシャア!「ヒョッホオー!」
見事、井桁を木っ端微塵にした少年は、意気揚々と下校したのであった。

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