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みみのじっけん/chitoku

ある8月の午後でした。プールから帰ってきたご子息は、頭を真横に傾けて、片足でぴょんぴょん飛び跳ねながら、私の前を知らん顔で通り過ぎたのです。いつもは私に多少でも声を掛けて、あるいは抱擁してから玄関に向かうご子息でしたから、私は嫌な予感がして気を揉んでいたのです。
夕食前の散歩の時間になると、ご子息がいつものように出てきて、私の頭をなで、しゃがんで抱擁するものですから、私はすっかり安堵して、力いっぱい尻尾を振っていたのです。
「実験するよ」突然ご子息はそう言って、グレープジュースの入ったペットボトルのふたを開け、片腕で私を抱擁したままペットボトルの飲み口を私の耳にあてがったのです。はっとして、私は激しく首を振り、ご子息の顔を見つめましたが、ご子息は私の首輪をきっちり握ったまま、私の耳と耳の穴を凝視して「実験、実験」とつぶやいているのです。
常日頃お世話になっているご主人のご子息であり、私を親友と呼んでくれるご子息のご希望、出来れば叶えてあげたいと思うのですけれども、耳にジュースなど聞いたことがありません。とにかく私はイヤイヤを続けるしかなかったし、ご子息は執拗に私の耳の穴を狙ってペットボトルを傾け、また狙っては傾け、気がつくと私もご子息もジュースでべたべたになり、グレープジュースの甘ったるい臭いで私の鼻は麻痺しかかっておりました。
「ああ、もう!×造!」ご子息は、苛立ちが極みに達してか、仁王立ちとなり私を見下ろしながら、ペットボトルを咥えてジュースを口に含ませました。私は、ご子息の怒りを理不尽に思いましたが、このような状態では体が勝手に反応してしまいます。私は何故か、伏せの姿勢で、ご子息の次の行動を、半ば予想できてはいたのですが、じっと見守るように待ちました。
するとご子息は、膝を着いて私に覆いかぶさってきたのです。もちろん、いつもの抱擁と違って、口に含ませたジュースを私の耳の穴に注ぎ込む為の押さえ込みだったのです。
「実験」のなんと恐ろしいことでしょう、こうなると私どもは手も足も出ないのです。ましてや私のような老犬がご主人のご子息を噛むなどということは決してないのです。私の不思議な本能は、一切の抵抗をやめたのです。ついにご子息は、私の耳の穴に口をつけ、ちゅるると私の中に甘ったるいジュースを注ぎこんだのでした。
…私の耳は、温かいもので満たされました。耳の穴に液体が流れるのを感じました。想像したほど、痛いことや恐いことではなかったと思いました。ご子息が私の耳から離れると、耳からジュースが首をつたって流れました。
「実験」をやりおおせたご子息は、私から少し離れてしゃがみこみ、私の所作を観察しているようでした。
ああ!次の瞬間、殆ど同時に、私とご子息は、私の股間の熱い猛りに気がついたのでありました。
ご子息は、目をまん丸に開いて、私の肉茎を注視しておりました。私は、恥じて丸くなるべきだったかもしれませんが、実はとても興奮していたのでした。去勢されてから数年、完全に忘れてしまっていた、私がオスであったという事実!
それにしても、何故こんなときに堅くなったのか、去勢された老犬には知るすべもないのです。恐らくそれは、私の股間に見入っているご子息の、次なる「実験」のネタ…。

3D文章ゼミ

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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