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箱付男/火星紳士

 ある時、公園の脇の電柱の下に、箱が落ちていた。1辺が20センチ位の白い箱で、角は滑らか、ツルンとしている。模様は無い。なんだろうこれは? しゃがんでよく見ると、上に小さく「ケッシテ、カイフウ、シナイデクダサイ」と書いてある。開封しないで下さい……。なんだろこれ? なんだ? 気になる。一度はそのまま置いて帰ろうとしたのだが、つい、まあ、そんな興味もあって、部屋に持ち帰ってしまったのである。

 あらためて良く見てみるとますます変な箱である。開封しないで下さいとあるのに、開けるところが無い。どの面もツルンとしていて、どこにも切れ目などないのだ。どうやって開けるのだ? オレは悩んだ。パズルかこれは? しかし、いくら眺めても、こねくり回しても、さっぱりわからぬ。もしや見落としている何かがあるのかも知れない。ごくごく小さな何かが。とりあえず、屋外に放置してあったので多少汚れている。まずこれをキレイにすることだ。

 オレはキッチン用洗剤を使って洗ってみた。この中性洗剤というものは、わりかし何でも落ちる。特になんとなく汚れたような、薄汚れには効果的だ。さらにお湯で洗う、洗剤をつけ、黄色いスポンジでこする。よし、キレイになってきた。スポンジで洗うとキュッキュと小気味良い音がする。キュッキュ、キュー、キュキュ、キューン、ギューン、ンーン、ギュウーン、ンーン、ゥン、ゥゥウーン。ゥン、ァン、ァーン、ァァーン、ん? な、なんだ? なんか、喋ってる? 

 3日3晩考えて得た結論は、こいつは生きている。何かの生物に違いない。というものだった。その証拠にこの箱のある部分をスポンジで撫でると、かなりハッキリ、「ゥウーン」とか「キャッ」とか音が鳴るのだ。そのうち、指だけでも、「きゃっ」とか「アン」とか鳴り出した。これを生きていると言わずして何と言おう。こいつはやはり、生物なのだ。しかもメスである。なんとも色っぽい音を出すのがその証拠だ。友人にこのことを喋ると「それって幻聴じゃないの?」とか「摩擦音がそう聞こえるだけなんじゃない?」とか「お前、溜まってんじゃないの?」とか言われてしまう。しかし、実際そう聞こえるものはしかたない。

 オレはこの箱の事を他人に吹聴するのをやめた。そして密かに世話をすることにしたのである。箱はどうやら、やさしく撫でられるのを好むようだ。強く叩いたり突いたりすると、暫くなんの反応もしなくなる。お風呂が好きなようである。花の匂いを嗅がせるとホンノリ色がピンクになる。しかし不思議である。生物であると言ったものの、この箱は何も食べない。にもかかわらず徐々に大きくなっているのである。気になったのでモノサシで測ってみたところ、3日前に比べて1ミリ大きくなっていた。やはり成長している。でも、口が無いのにどうやってエネルギーを得ているのだろうか。なぞである。

 ある日、箱に裂け目ができた。ちょうど「ケッシテ、カイフウ、シナイデクダサイ」の文字の所だ。引っ張ってみると剥けそうだ、慎重に徐々に開いてゆく、きれいに剥けた。薄いピンク色の箱になった。良く見てみると箱の1つの面に「モウ、シラナイ」と書いてある。箱は前より良く鳴るようになった。こすると「あっ、あぁん」「もう、あん」と聞こえる。うーん、幻聴だろうか。少し不安になってきた。それぐらい艶めかしい音がするのである。

 そして次の日、また箱に裂け目が出来た。裂け目から見える中身は、なんだか柔らかそうだ。覗いてみると、「キテ」と書いてある。な、なんなのだ。何がキテ? ど、どうしろと言うのだオレに。箱を撫でると「ハヤクー」と聞こえる。う、うーん。どうすれば、と、とりあえず、いや待て、これは行ってはいけない世界では? なにかマズイ、マズイよ何か! オレは目をつむって指をその中に入れた。そおっと、そおっと、慎重に……。「あああああ~ん」ものすごい音がして、指がギュウギュウ締め付けられる。締め付けられる、締め、イテテテテテ! 痛い痛い痛い! 何だよこれはー! 

 それ以来、箱はオレの指から離れない。どこに行くにも箱付だ。開けてはいけないものは、「ケッシテ、アケテハ、イケナイ」のであるよ、ホントに。

3D文章ゼミ

コメント

思わず笑いが…

火星紳士さんご無沙汰です。相変わらずおもしろい~!

ところで、その箱、ホントはどこで手に入れたんですか(*^ー^)ノいつか見せてくださいね!?(^-^)/

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