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南田さんの耳/風花千里

「南田さんの右耳大きくなってない?」と誰かが指摘した。
「携帯で擦れて、腫れちゃったみたい」南田さんは、白くふくよかな顔に困ったような表情を浮かべて答えた。南田さんの携帯電話はいつかけても通話中の〈プープー音〉しか聞こえないし、メールの受信記録は他人の相談事や恋の悩みですぐ一杯になってしまうらしい。
僕は人に悩みを相談するのも、人から悩みを相談されるのも好きじゃない。そりゃ友達の相談にのることもあるけど、大切な時間を割いてもいいと思えるほどの話だけ。だから、耳が腫れるまで人の話を聞いてやっている南田さんの気がしれない。そんなに友達ヅラがしたいのか。それとも超のつくお人よしなのか。
まじめに取り合うのもバカらしいので「人の話で耳が大きくなるなんておシャカさまみたいだ」とちゃかしてやった。周りの連中が聞きつけ「おシャカさまって耳が大きかった?」とか「御利益ありそう」とか餌に群がるカラスのごとくかまびすしい。「私はただ聞いてるだけよ」と南田さんは軽く僕をにらんだ。確かに南田さんは相手に同意したり適切な助言をしたりはしない。余計なことを言っちゃったかなと僕はちょっと後悔した。
ある日、林さんが南田さんの席へきて、たわいもない世間話を始めた。林さんはおしゃべりだから、話は休み時間が終わるまで続きそうだった。南田さんはおとなしく聞いていたが、途中から耳を押さえ出した。
「何それ、あたしの話、聞きたくないの?」と林さんが詰め寄る。
「耳がむずむずしたのよ」ボブカットの隙間からのぞく南田さんの耳は腫れて真っ赤だ。
「ふうんどうだか」林さんはシワシワの銀紙のように顔をこわばらせている。
「単なる世間話じゃつまらない? あんた人の話を聞いといて、実は陰でチクってるんじゃないの? あんただけに話したことなのに他の子が知ってたりするのよね」
南田さんは下を向いて何も言わない。
「やっぱりね。なんて陰険な女!おシャカさまが聞いて呆れるよ」林さんが教室を出て行く。取り巻いていたやつらも白けた様子で散り散りになった。
ひどい、おシャカさまだって聞きたくない時はあろうに、大衆は常に自分勝手だ。
「気にすんなよ。おシャカさまはおしゃかになったけど、南田さんは南田さんだよ」
一部始終を見ていた僕はボケをかまし、僕なりに彼女を元気づけたつもりだった。
南田さんがさっと顔を上げた。
「ばーか。私、おシャカさまじゃなくて神さまだから」べろんと皮を剥いだように、その顔は侮蔑にみちていた。
「えっ?」
「私のこと、ただのお人よしだと思ってんでしょ」南田さんはイライラした様子でそっぽを向く。
「そんなことないよ」
「ふん、アンタは鈍そうだから論外だけど、どいつもこいつも本音を話せる相手がいなくて寂しいみたいでさ。私が黙って聞いてやると、いくらでもしゃべる。
だから私はなんでも知ってるの。神さまみたいにね」
何度も南田さんの口から出る「神さま」という言葉に、僕ははっとした。近頃、「ゴッド・魔夢(まむ)」というハンドル名を持つ投稿者が、携帯の学校裏サイトで誹謗・中傷を繰り返していた。その陰湿な書き込みのせいで、不登校になったり自殺未遂をしたりする中学生がいるという。
まさか……。
僕は恐ろしい考えにとらわれていた。しかし、南田さんがゴッド・魔夢であるという証拠は何一つない。僕は南田さんの大きくなった耳をただじっと見つめていた。 

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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