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早撃ちジョージ/輔

カチ、カチッカチッカチッカチッカチッ…
軽い発射音が鳴り響く。無表情のまま右手でピストルの引き金を引き続ける男。早撃ちにかけては彼の右に出るものはいない。
左手にはタオル。親指と人差し指で生地を挟み、ピストルの先端に付いている針で刺し、間髪入れず引き金を引く。すると商品であるタオルにプラスチックの糸で値札が付く。
ピストルというのは商品に値札をつける器具のことだ。
彼の名前は浜口丈二。職場では「早撃ちジョージ」と呼ばれていた。職場には社長とその奥さんである専務、パートのおばちゃんのテイちゃんとトクちゃんの4人。そう、右に出るものと言っても候補はそれだけだった。
「ほんと早撃ちだねぇ。惚れ惚れするよ」
専務のいつもの言い回し。するとこれまたいつものようにずり下げた眼鏡の上から社長がこちらを見る。日々繰り返される小芝居。うんざりしつつも無視はできない。
「…んなことないっす」
丈二だっていい年だったが、周りに比べれば孫同然の年齢。早くて当たり前だと思っていた。タオル畳み機と化したおばちゃんの横で丈二も早撃ち機と化す。
(おらえのばっぱちゃんとなんぼも違わねぇけんど二人ともはええ)
おばちゃんたちの無言の圧力を感じて、丈二のピストル捌きは進化したのだ。
(ピストル撃ちはオレだけだも)
カチ、カチッカチ…。左側に丈二が撃ちやすいようにテイちゃんがタオルを広げてくれる。撃ち終わったタオルは撃ったそばからトクちゃんに引き抜かれ畳まれていく。
元々、ここでは丈二の兄が働いていた。兄を頼って田舎から出てきたら、入れ替わりで兄は戻り丈二だけが残った。
カチッカチ、カチ。
ガラッ。道路に面した重いガラスサッシが開いた。お嬢さんだ。単調な暮らしの中、丈二にとっては唯一の花だった。社長夫婦の一人娘で営業を担当している。この日はタイトな黒のパンツスーツに白い光沢のあるブラウスを着ていた。
「いでっ!」
お嬢さんに見とれて丈二はピストルの針で親指の腹をしたたか撃った。見る見るどす黒い血がテントウムシみたく丸く吹出した。
「なんだでば!よそ見さしてっから。商品ば汚れてねか?」
「だばテイちゃんさ、丈二と代わってけ」
社長も奥さんも興奮するとお国言葉が飛び出す。誰も丈二の怪我を心配しない。テイちゃんは無言で棚から古いピストルを取り、丈二の座っていた場所にどっかとあぐらをかいた。
「丈二は伝票整理せぇ」
丈二は仕方なくひとり絆創膏を張った。ガーゼに血が滲むのが透けて見えた。
テイちゃんは畳まれたタオルを広げることなく、札をつける場所をちょい、とつまみ、それを4枚扇形に整えたかと思うと、やおら続けざまにピストルを撃った。連射だ。4連射だ。
「わぁ!テイちゃんの連射久しぶり!かっこいい~」
お嬢さんのこんな弾んだ声は初めて聞いた。テイちゃんの連射も初めて見た。知らなかったのは丈二だけだった。テイちゃんは撃つのも早いが、何より畳んだタオルを崩さない。動作に全く無駄が無かった。トータルの時間にしたら圧倒的に丈二よりテイちゃんの方が早かった。
「テイちゃんの動き、無駄が無いよねー。またやればいいのに」
お嬢さんが笑顔で言う。テイちゃんは黙々と撃っている。連射につられてほっぺたが揺れていた。
(オレ、めっさかっこわりぃ…)
机に額が付きそうなほどうなだれながら、伝票に強く押し付けた親指は、絆創膏の空気穴からプツプツと血を噴き出していた。

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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