「文章王の掌編小説ゼミ」7月度 募集中!

◆『文章王の掌編小説ゼミ』 2009年7月度

  • 時間:2009年7月31日(金) 19時より 2時間程度
  • 場所:東京都豊島区目白3-2-9-4階
  • 地図:http://www.hiden.jp/contact/map.php
  • 料金:3,000円(1400字)または 4,000円(2800字)
     (オンラインは1,000円UP)
  • 詳細:http://www.hiden.jp/semi-2009/

    申込み締め切り 7月24日(金)
    投稿締め切り 7月28日(火)

早撃ちジョージ/輔

カチ、カチッカチッカチッカチッカチッ…
軽い発射音が鳴り響く。無表情のまま右手でピストルの引き金を引き続ける男。早撃ちにかけては彼の右に出るものはいない。
左手にはタオル。親指と人差し指で生地を挟み、ピストルの先端に付いている針で刺し、間髪入れず引き金を引く。すると商品であるタオルにプラスチックの糸で値札が付く。
ピストルというのは商品に値札をつける器具のことだ。
彼の名前は浜口丈二。職場では「早撃ちジョージ」と呼ばれていた。職場には社長とその奥さんである専務、パートのおばちゃんのテイちゃんとトクちゃんの4人。そう、右に出るものと言っても候補はそれだけだった。
「ほんと早撃ちだねぇ。惚れ惚れするよ」
専務のいつもの言い回し。するとこれまたいつものようにずり下げた眼鏡の上から社長がこちらを見る。日々繰り返される小芝居。うんざりしつつも無視はできない。
「…んなことないっす」
丈二だっていい年だったが、周りに比べれば孫同然の年齢。早くて当たり前だと思っていた。タオル畳み機と化したおばちゃんの横で丈二も早撃ち機と化す。
(おらえのばっぱちゃんとなんぼも違わねぇけんど二人ともはええ)
おばちゃんたちの無言の圧力を感じて、丈二のピストル捌きは進化したのだ。
(ピストル撃ちはオレだけだも)
カチ、カチッカチ…。左側に丈二が撃ちやすいようにテイちゃんがタオルを広げてくれる。撃ち終わったタオルは撃ったそばからトクちゃんに引き抜かれ畳まれていく。
元々、ここでは丈二の兄が働いていた。兄を頼って田舎から出てきたら、入れ替わりで兄は戻り丈二だけが残った。
カチッカチ、カチ。
ガラッ。道路に面した重いガラスサッシが開いた。お嬢さんだ。単調な暮らしの中、丈二にとっては唯一の花だった。社長夫婦の一人娘で営業を担当している。この日はタイトな黒のパンツスーツに白い光沢のあるブラウスを着ていた。
「いでっ!」
お嬢さんに見とれて丈二はピストルの針で親指の腹をしたたか撃った。見る見るどす黒い血がテントウムシみたく丸く吹出した。
「なんだでば!よそ見さしてっから。商品ば汚れてねか?」
「だばテイちゃんさ、丈二と代わってけ」
社長も奥さんも興奮するとお国言葉が飛び出す。誰も丈二の怪我を心配しない。テイちゃんは無言で棚から古いピストルを取り、丈二の座っていた場所にどっかとあぐらをかいた。
「丈二は伝票整理せぇ」
丈二は仕方なくひとり絆創膏を張った。ガーゼに血が滲むのが透けて見えた。
テイちゃんは畳まれたタオルを広げることなく、札をつける場所をちょい、とつまみ、それを4枚扇形に整えたかと思うと、やおら続けざまにピストルを撃った。連射だ。4連射だ。
「わぁ!テイちゃんの連射久しぶり!かっこいい〜」
お嬢さんのこんな弾んだ声は初めて聞いた。テイちゃんの連射も初めて見た。知らなかったのは丈二だけだった。テイちゃんは撃つのも早いが、何より畳んだタオルを崩さない。動作に全く無駄が無かった。トータルの時間にしたら圧倒的に丈二よりテイちゃんの方が早かった。
「テイちゃんの動き、無駄が無いよねー。またやればいいのに」
お嬢さんが笑顔で言う。テイちゃんは黙々と撃っている。連射につられてほっぺたが揺れていた。
(オレ、めっさかっこわりぃ…)
机に額が付きそうなほどうなだれながら、伝票に強く押し付けた親指は、絆創膏の空気穴からプツプツと血を噴き出していた。

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

少年の狙い/ちとく

晴天が続いたある真夏日の午後、団地内の焼けたアスファルトには、干からびたミミズの死骸が目立った。
毎年ある時期の、雨の翌日などにはよくあることで、誰も気に留めなかった。けれども子供たちは、程度の差こそあれ、みな一様に注視し興奮した。
その日少年は、自宅の棟の前で、ひと際大きい干からびたミミズを見つけた。友人宅に立ち寄り、連れだってプールに行く予定だったが、約束の時間まで少し余裕があった少年は、干からびたミミズの脇にしゃがみこんだ。よく見ると2匹のミミズが絡まっているように見え、どこが絡まっているのか、2匹ならどことどこが頭なのか、少年は念入りに観察するのであった。
そこに、Tシャツとスカートがはち切れんばかりの巨漢姉妹が通りかかった。少年よりいくつか学年は上だったが、近所の顔なじみで小学校も同じ巨漢姉妹は、少年が熱い眼差しを向ける干からびたミミズに、汗の滴る大きな顔を近づけた。
「ね、食べられるかな?」「ええー、どんな味?」
少年の向かいに並んでしゃがみこんだ巨漢姉妹の呟きを、少年は冗談とも本気とも取らなかったが、母親の作る切干大根の煮物など思い出したりした。
「水鉄砲持ってくるから!」少年が咄嗟に言うと、「いいね」「やろう」と巨漢姉妹が応じた。少年は、肩のプールバッグを置いて、団地の階段を駆け上がった。
しばらくして少年が戻ってくると、干からびたミミズは巨漢姉妹によって階段入口の日陰に移動させられていた。さらには、何体かのミミズの死骸が加えられていて、少年が注目した、絡まった大きい死骸が分からなくなってしまっていた。

少年が持ってきたのは、歯磨きコップに入った水と、弁当に使う魚の形の醤油さしであった。「水鉄砲見つからんかった」
巨漢姉妹は、「水鉄砲って言ったじゃん」「コップの水かければいいじゃん」と少年を軽く責めた。
少年は、主導権を奪われそうな危機を苦笑いでかわし、自ら先にしゃがんで、醤油さしに水を吸わせた。「見てて、見てて」
巨漢姉妹が、先ほどと同じようにしゃがんだところで、少年は干からびたミミズに向けて小さな水鉄砲を発射した。ビュッ!
しばらく声も出ないほど、干からびたミミズは全く変化なかった。
立ち上がろうとする巨漢姉妹を、少年は危機感を持って制した。「待って、見て!」
巨漢姉妹が再び干からびたミミズを凝視する間に、少年はコップから醤油さしに水を吸わせた。干からびたミミズは、相変わらず変化なかった。
「よーく見て!」
少年は息を殺して、慎重に狙いを定めた。慎重に、慎重に。
少年の勿体ぶりに業を煮やした巨漢姉妹が何か言おうとした時、少年の小さな水鉄砲は狙い通りに発射された。ビュッ!
巨漢姉妹のほくろの多い方の股間、ふとももに挟まれてパンツがぷっくり盛り上がっている部分に、少年の小さな水鉄砲から発射された威勢のいい水が命中した。
「ちょっと、おい!」
巨漢姉妹のもう片方、色の白い方が立ち上がるや否や、少年は歯磨きコップも醤油さしも投げ捨てて、プールバッグを持って走り去った。全速力で走れないほど笑いがこみ上げてきて、少年は何度も何度も転びそうになったのであった。

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

「文章王の掌編小説ゼミ」6月度 募集中!

◆『文章王の掌編小説ゼミ』 2009年6月度

  • 時間:2009年6月26日(金) 19時より 2時間程度
  • 場所:東京都豊島区目白3-2-9-4階
  • 地図:http://www.hiden.jp/contact/map.php
  • 料金:4,000円(1400字)または 5,000円(2800字)
  • 詳細:http://www.hiden.jp/semi-2009/

    申込み締め切り 6月19日(金)
    投稿締め切り 6月23日(火)

太陽がきらめいた/浅木

「あんた、気ぃつけてマスクして歩かんと、豚なるで。東京でも流行ってるんやろ、おかあさん心配や……」
「うん、分かってるって。はい、はい、ブヒッ」
「あんた、今、ブヒッって言った!?」
「言ってへん、忙しいから切るでブヒッ」
「ちょっとあ…」
私は携帯を切り、深いため息をついた。そして、壁にかかった鏡を見る。
鏡の中の豚と目があった。コラーゲンたっぷりそうな豚の顔。それは、首から上が豚になった自分の姿だった。

西暦2009年6月、世界を豚インフルエンザが席巻した。WHOは即座に流行レベルをパンデミックへと引きあげ、流通・交通網の封鎖を行ったが、人類の対応は間に合わなかった。
豚インフルエンザの症状は、まず鼻・喉に現れる。鼻・喉を中心に急速に姿が変わってゆくのだ。外見変化の原因は、まだ解明されていない。が、現時点で分かっているのは、ウイルスは進化の母体となった豚のDNAを保持しており、そのウイルスが人間の体内へ侵入してゆくことで、人間のDNAに変化を与える。また、一度変化したDNAは、ウイルスが死滅しても元に戻らない、という事だった…。

私は、もう一度鏡を見た。
鏡に映し出されたのは、花柄模様のチュニックに、ワインレッドのジャケット。その上に載っている豚の顔。違和感の帝王がそこにいた。
「ブヒッ(泣)」
悲愴につぶやく。すでに言語にすらなってない。
この病気、ウイルス自体は弱毒性のため、上半身(喉から上)までしか発症しない。が、感染能力が高いため、感染者は日に日に増加していた。テレビでは、各地の医療機関で治療を行なっていると盛んに報道していた。けれど私は知っている。報道規制を受けないために、真実が露出するインターネットの掲示板──2チャンネルによると、日本政府は既に各地で"屠殺"を行なっているのだ。報道を信じ、ホットラインに電話しようものなら、直ぐに屠殺隊がやってくる。そう、もう信じられるニンゲンはいないのだ……。信じられるニンゲンは……ニン…ゲン………
「ブ、ブヒッ……!?」
その時私は、気がついた。
そうだ……人類全員が豚になればいいのだ。そうなれば、問題は自然と消えてなくなる。
私の心の暗雲が、サァッと晴れ渡った。外に出よう。そして、このインフルエンザを広めようじゃないか。それで全ての問題は解決する。豚にとっては、まるで入れ食い状態のいい話じゃないか。
私は、ドアを開け、狭いアパートから飛び出だした。
目指すは駅前──私は飛ぶように走った。両手を水平に伸ばし、ブーンと気持ちよく。
「ギャア嗚呼嗚呼ッッ!」
すれ違ったニンゲン達が、狂ったように叫び逃げてゆく。私を中心に放射状に逃げゆくニンゲン達。なかなか良い気分だ。
お陰で駅までたどり着く頃には、すっかりとニンゲンがいなくなってしまっていた。
途方にくれる私。その時、私の垂れた耳が、遠から聞こえてくるサイレンの音を捉えた。
「………ブッヒッヒッ」
まるで挑戦者を受け入れるチャンピオンの気持ちだ。どうだ、こいよニンゲン。それが目的だったのだから。
駅前の広場に、数台のパトカーが止まった。続いてパトカーから、防護服を纏ったニンゲンがばらばらと現れた。

私はニヤリと笑った。
そして、四つんばいになり、一人のニンゲンへと突進する。
大空へジャンプ。太陽がきらめいた。軽々とニンゲンと突き飛ばし、馬(豚)乗り状態となる。
私は、勝利への確信と共に、ウイルスを吐きかけてやろうと、防護服の頭部を食いちぎった。

「…………!」
そこに現れた顔は。
白い羽毛と、赤いトサカ。黄色いくちばし。

(……と、鳥インフルエンザ……!?)
その瞬間銃声が聞こえ、私の視界は暗転した。

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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